5月7日(土)
 横浜のジャズクラブ「ドルフィー」でおこなわれたドラマー森山威男さんのライブを聴いた。

山下洋輔トリオの黄金期に全世界を席巻、特にヨーロッパで圧倒的支持を集めた伝説のカリスマドラマー森山さん。
今は岐阜県可児市に居を構え、関東圏でライブをおこなってくれるのは年に数度のみ。いきおい熱狂の信者とも言うべき多くのファンのボルテージは最高潮に達し、この夜も遠く北海道、九州をはじめ全国から押し寄せた。テーブルも置けない店内はギューギュー詰めで立錐の余地なし。
その観客皆が 森山さんの一挙手一投足に 見入り聴き入っている。

4ビート、8ビート、ちょっと跳ねた16ビート...そんな定期的”リズム”を刻むのがドラムス、、と思っっているのなら認識を新たにして欲しい。森山さんのそれは、リズムマシーンのような繰り返しが一切無い。なのにリズムがキープされている不思議。
大きく羽を伸ばした鳥の羽ばたきのように 動きは華麗で優雅なのに、ダイナマイトな爆裂音が繰り出される不思議。
穏やかな語り口調、優しい人柄、ジェントリーな佇まい。それでいて、あのドラミング。
 ジャズ界の七不思議は 幾つも彼のためにある。

 時に絵筆で絵画を描くが如く、時に古典から前衛まで古今東西様々な舞踊の如く、そして時には 性の営みの如く。
見聴きする者の感性にひたひたと迫ってくる。「和」の雅、たおやかさをも感じさせる。
唯一無二。
ワン・アンド・オンリー。
世界中、彼の前にも後にも同様のドラマーは存在しない。

 心の動きそのままに、心の臓の鼓動が発せられている。空気を揺るがす大音量。しばらく耳鳴りが止まない。けれども、決して煩くはないのだ。およそ楽器を演奏するとか、打楽器を打つとか、音楽を奏でる...という表現では言葉足りない、魂のほとばしりが 覆い被さるように迫ってくる。そして満ち足りて 子どものように泣きたくなるのだな。

通常ジャズのライブと言えば「イェィっ!」とか「ヒューっ♪」なんて歓声と拍手 がソロの部分には送られるものだ。が、彼のドラミングにおいては皆、あまりのことに 魂が幽体離脱状態に陥ってしまうのじゃなかろうか。拍手も「ふぅ...」という溜息のあと、一呼吸置いて湧き起こる。ライブ終了後、しばらく無言...の時間が流れている。

腰が抜けてるのよ皆。
「いやぁ〜良かったね♪」なんて軽々しく口にする気には到底なれない。
凄いわ。あちこちで 深い余韻に浸りながら、少しずつ現実に引き戻され、もそもそと動き出す。しかるべき後、「泣いてしまった...」の声がとぎれとぎれに 漏れ聞こえてくるのだった。

今回は現レギュラーの音川英二のテナーに加え、往年の森山カルテットのフロントだった井上淑彦さんが参加。彼の作曲、アレンジした曲の数々がさらに我々を打ちのめし。2ndの「Non Check 」という曲に至って
は、偶然と必然が産み出し合うメンバーのソロ、デュオ、かけあいのバトルが、どこまでも化けて絡み合って。とんでもない高みへと登り詰めていった。

テナー2本、アルトにアコーディオンと計4人のフロント楽器でアンサンブルの妙も楽しみ、田中信正のピアノはいつにも増して狂気を帯び、時に儚く切なげに展開、さらに坂井紅介さんのウッドベースは ムンク
の絵のようなシャウト シャウト シャウト。ただただ身体をえぐられる衝撃と感動に、身も心もボディーブロー、全身打撲の虚脱状態で 帰途についたのだった。

いやぁ。すごい。凄すぎる。こんな世界を届けてくれる人達と同じ時期、
同じ空間に生きていることに 感謝。
出逢えたことに 至福を実感。。

[ 井上淑彦&森山威男SESSION@桜木町 DOLPHY ] 
1st set
1.Sound River   (音川英二 曲)
2,Waltz for Forest (井上淑彦 曲)
3.Witch-tai-to   (Jim Pepper 曲)
4.Sunrise     (板橋文夫 曲)
2nd set
1.N.O.W.      (音川英二 曲)
2.Birth of Life    (井上淑彦 曲)
3.渡良瀬      (板橋文夫 曲)
4.Non Check    (井上淑彦 曲)
encore:
Gratitude      (井上淑彦 曲)