2008年07月02日
ぐるりのこと。
ここのところ 渋い映画を観ることが続いているなぁ。今度はシネスイッチ銀座で
「ぐるりのこと。」を観た。
どこにでもいそうな夫婦の 崩壊と再生の物語。
簡単に言ってしまえばそれまでなんだけど、1993年からおよそ10年の月日を1年ずつ淡々と静かに丁寧に描いていく。
元々美大で知り合った夫婦だが、夫は靴屋のアルバイト、妻は零細出版社で働く。
ある日、夫に法廷画家にならないかという話が舞い込む。妊娠中の妻のお腹も膨らみ、二人は幸せに向かうかに見えたが...。
いきなり次の年の描写は 哀しみの淵から始まる。
妻は その哀しみから 精神の均衡を失い 鬱になっていく。
夫婦を演じる二人が たまらなくイイ。
あの「東京タワー ボクとオカンとときどきオトン」で作家として一世風靡したリリー・フランキーが初の本格的映画主演。
きっと本人もこのまんまの人なんだろうなぁ... という自然体の演技が なんと穏やかに観る者の気持ちに入ってくることか。
その妻を演じるのは木村多江。今、薄幸の女性をやらせたら麻生久美子と双璧では?
切なくも迫真の演技が心に響きまくり。怯える様子、鼻水まで垂らして泣きじゃくる姿。
わかるよ。同じ女としてその思いがすごい伝わってくるんだ。
そして法廷画家という視点から、実際に90年代に起きた陰惨な事件を彷彿とさせる描写が次々となされるのがスゴイ。
幼女誘拐殺人事件から地下鉄サリン事件、酒鬼薔薇事件など、その公判シーンがリアルで、犯人の狂気と遺族の苦しみ哀しみが とても真に迫って描かれていて胸を突く。
判決が出た途端、ドタドタと退出するレポーター陣の滑稽さ。その揶揄を込めた描き方に、溜飲を下げる思いもする。
夫婦が再生に向かうとき、思いきり妻を受け止め、黙って黙って見守り、愛し続ける夫。
静かな しずかな 静かな 愛。
その包み込む愛に 心打たれてしまうのだな。
前半のHな夫婦の会話には、映画館内からも笑いが随分巻き起こっていた。リリー・フランキーの全裸のお尻は可愛かった。
Hする日を曜日で完全に決めて、その通りじゃないと許せない妻。男としてはコワイだろうなぁ。
その「H予定日」が書き込まれていたカレンダーが、年ごとに趣きを変えていき、それがそのまんま、そのときどきの夫婦の状態を映し出しているのも 面白い。
そうだよな。さりげないところに 決定的なひずみや修正が表れたりするもんだよな。
後半の 妻が絵を描き続けるシーン。
陽炎のように妖気が立ち上ってくる。絵も彼女の姿も 妖しいほどに美しいな と感じる。
あぁ 私も絵筆を持ちたい。って、あらためて思った。
リリー・フランキーのおそらく直筆の写実的なデッサンがまた 愛情にあふれている。
こんな静かな でも良質な映画が 評価される日本の映画界であってほしいな。
イイ映画だったよ。

